「内と外」音と関係性~カプカプ新井一座の事例から

撮影:飯塚聡 内の宇宙と外の宇宙が響き合うサウンドスケープ
撮影:飯塚聡 内の宇宙と外の宇宙が響き合うサウンドスケープ

ササマユウコFBより

 2023年11月1日。もカプカプ×新井一座日和。2023年度3回目の「舞台芸術と福祉をつなぐファシリテーター養成講座(主催:センターフィールドカンパニー 神奈川県マグカル事業)でした。写真ほとんど撮れずでしたが、ちょうど新井一座の内と外、「音と関係性」がよくわかる一コマがありましたので、記録映像の飯塚聡さんから拝借しました!一見するとみんながピアノに合わせて何かをしているようですが、実は違います。

 この時はカプカプーズと新井さんと板坂さん、そして今日は受講生の皆さんがつくる内側の音世界があって、私が弾く外世界のキーボード(マリンバ音)は時間に「余白」を作っています。内世界で生まれるリズムや雰囲気と響き合いながらも、外は音環境(サウンドスケープ)として存在しているシーンです。音は楽器の位置からではなく、壁向きに離して設置されたスピーカーから会場全体を立体的に包み込むように出ています。新井さんはその音もよくきいていて、言葉によって内と外を響き合わせていきます。内側でも笛が吹かれたり、音具が鳴らされたり、「焼き芋売り」がいたり笑、違うリズムが生まれていることもあります。写真は綺麗な状態ですが、内と外の音環境やかたちは時間と共に有機的に変化します。しかしこの「響き合う関係性」は変わりません。

 そして外世界にはもうひとり対角線上に小日山さんがいて、虫や鳥のように、時には雨や風のような自然なタイミングで自由に音を出しています。言葉で伝えるのはなかなか難しいですが、「サウンド・エデュケーション」の応用と、リトミックや音楽療法との違いが少しでも伝わっていたら嬉しいです。福祉の場で音を扱う人は特に「音=物理的エネルギー」であることを自覚して、パワーバランスに配慮します。新井さんの知覚も日々研ぎ澄まされていますし、知覚過敏の人がいるか否か、事前リサーチも必要です。聴覚過敏者が「音楽や音が苦手」と誤解されていることも多いですが、実は大きな音やノイズ等が苦手なだけの場合がほとんどです。参加者に体調や情緒が優れない人が多い場合は、鼓動より早いリズム、不安定なコード進行等は避け、ミニマルな安定感を優先します。演奏家の専門教育ではステージ上から一方向的に音を届けるための意識や訓練は重ねていきますが、音楽ホールではなく福祉の現場では「音」の扱いが異なるという意識は忘れないようにしたいです。

 マグカルは新井一座のコレクティブを学ぶ場なので音をメインにした講座ではありませんが、ふりかえりの時間では内と外の音と関係性、サウンドスケープについてのご質問も多いので今日は象徴的なワンシーンからご紹介しました。逆説的ですがサウンドスケープ的に「耳をひらく」ためには、日常のなかでも聴覚以外の知覚を世界にひらく意識が大切になります。

 また講座全体については、後日イラスト付きでシェアいたします。皆さま、お疲れ様でした。

撮影:ササマユウコ サントリーホール・サマーフェスティバル2023Engawa-Projectより
撮影:ササマユウコ サントリーホール・サマーフェスティバル2023Engawa-Projectより

【おまけ】
 内と外 音風景の関係性で印象的だったのが今夏に開催されたサントリー・ホール・サマーフェスティバル2023のEngawa-Projectでした。アート・コレクティブKITAによる『ひらかれた家』が提示した内と外。ブルーローズホールに立ち現れた音の関係性は忘れがたいものでした。内のガムラン宇宙が家の外へと波紋のように広がり、屋台の掛け声や観客のおしゃべりなど、ホール全体の音風景を包み込んでいきました。ガムランのおおらかな包容力は、西洋型コンサートホールがつくる一方向的な関係性を根底から変えたのです。
 写真は野村誠だじゃれ音楽研究会の皆さんが水を入れた空き瓶を鳴らしながら、外側の世界を練り歩いているシーンです。あらためて思うのは、森や街中の音、私たちの生活を取り囲む音環境(サウンドスケープ)は常に動いているということです。その「変化している関係性」が自然な状態だとしたら、楽譜に固定された音楽とは何とも特殊な時間だとあらためて気づく瞬間もありました。音楽とは何か、何がオンガクか。そこに生まれる場、関係性から問い直すことの意味をあらためて実感しました。


筆者:ササマユウコ(音楽家・芸術教育デザイン室CONNECT/コネクト代表)
1964年東京生まれ。3歳からピアノ、10歳から楽典を学ぶ。都立国立高校、上智大学を経て、セゾン文化事業専門職へ。並行して作曲・演奏活動を続け、2000年代の活動を経て2011年東日本大震災を機に「音楽・サウンドスケープ・社会福祉」の実践研究に。弘前大学大学院今田研究室社会人研究(2011~2013)、自治体市民大学企画運営。ALS新井英夫と共にアート・コレクティブ新井一座(2014~)、聾CODA聴対話の時間(雫境、米内山陽子、ササマユウコ)など。アートミーツケア学会理事、日本音楽即興学会、日本音楽教育学会。